PCRのトラブルシューティングマニュアル

私はこれまで、タカラバイオ株式会社のExTaq®︎やPrimeSTAR®︎シリーズや、RocheのFastStart Taq DNA Polymerase、その他PCRキット系の物をいくつか使ったことがあります。近年、各社から販売されるPCRに関する製品は多様化し、用途に応じてプライマーとテンプレートDNAを入れてサーマルサイクラーに入れればOKというキットもかなり多くなり、技術としては簡便になったと感じます。その中でもやはりPCRがうまくいかないという状況は多々あるようですね。

この記事では(古典的なテクニックですが)増幅がうまくいかない時に確認すべきことや、かつて試したトラブルシューティングの例を紹介したいと思います(あくまで私的な意見ですので、お試しになるかはどうかは個人の判断にお任せいたします)。



①トラブルシューティングの前に

どのような製品を使う場合でも同じですが、説明書に書いてある標準的なプロトコルに従って正しく実験を行っているでしょうか?試薬、サンプルの混ぜ方などハンドリングは十分でしょうか?もしこの辺に不安がある場合は、作業を熟知している人に一度見てもらうことをお勧めします。


②プライマーのチェック

プライマーの向きや、配列は正しいでしょうか?長いプライマーやGC含有量が多いもの(Tm値が高い)、繰り返しが多いものはあまり良くありません。また、2つのプライマー間で相補的な配列を含む場合、ダイマーを形成しやすくなるので注意しましょう。プライマーに問題がありそうだと判断される場合は再設計を検討しましょう。


③ターゲットとしている配列のチェック

もし既に配列がわかっている領域であれば、ターゲット領域の塩基の組成をチェックしておくと良いかもしれません。あくまでチェックなので、正確な配列が不明の場合は近縁な生物種の相同な領域の配列でも構いません。ここではやはりGC含有量や繰り返し配列をチェックします。増幅に難儀しそうな配列を含むかどうかは、やはり経験者に聞くのが早いでしょう。


④PCRの準備

基本的には製品のプロトコルに従って試薬を混ぜていきます。試薬もそこそこお値段がしますので、半分とか数分の1の量で作る場合もあるでしょう。この際、最終的な液量が少なくした場合、ちょっとした混ぜ合わせ量の違いによって失敗している可能性もあります。なので(少しもったいない気もしますが)慣れないうちは混ぜる液量もプロトコルに従うことをお勧めします。


⑤テンプレートDNAのクオリティ

フェノールなどを用いて抽出する場合も、抽出キットを用いる場合もあるでしょう。いずれにしても、増幅が見られない場合は、DNA濃度や夾雑物が含まれていないか確認すると良いでしょう。”抽出キットを使ったから安心”というわけでも無いので注意しましょう。DNA濃度チェックだけでは夾雑物の有無は確認できないことがあります。また、DNAをTEバッファーに溶かしている場合は、バッファーのMg2+濃度が下がってうまく反応が起こらないこともあります(特にこのトラブルはテンプレートDNAの添加量を多くすると起こりやすい)。

→フェノール抽出の場合、きっちりフェノールを除くためにエタ沈の際に70%エタノールでリンスした後、100%エタノールでもう一度リンスすると良いです。

→抽出キットの場合、抽出サンプルのクオリティによっては、キットのキャパを超えてしまい、夾雑物がコンタミすることがあります。その場合、フェノールやフェノクロで一度タンパク質を除くと良いです。

→TEが悪さをしている場合は、一度DNAをエタ沈して水などに溶かし直すと良いでしょう。(DEPC処理水よりも、オートクレーブした精製水の方が良いです)

→DNA/RNAの小断片が大量に含まれている場合、これもPCRに悪影響を及ぼす可能性があります。エタ沈の際に加える塩の種類を変えたり、PEG沈をすることによって取り除くことができます。


⑥それでも増えない場合

ここまでちゃんと確認しても増えないものは増えません。その場合はプロトコルをカスタムする必要が出てきます。

・テンプレートDNAの量を増やしてみる。

RocheのFastStart Taq DNA Polymeraseの取説(英語)にテンプレートDNAの種類によって推奨される濃度が詳しく書いてあります。

・プライマーの量を半分にしてみる。

・アニーリングの温度を上げる/下げる

→下げる場合、余計なバントが増える可能性も高まります。サーマルサイクラーにグラディエントの機能がある場合は色々な温度条件を試すことが可能です。

・DMSO(ジメチルスルホキシド)を加える。

→最終濃度が全量の5%~10%の範囲になるように添加します。この際、加えた分だけ水を減らすと良いでしょう。まずは5%加えてみて、PCRサイクルの条件はまずは通常プロトコルで試しましょう。

→酵素やキットの種類を変えてみる。

例)ExTaq®︎からPrimeSTAR®︎GXL DNA Polymeraseに変えてみるなど。種類によって、増幅する配列に得意不得意があるので、状況に応じて適切な酵素・キットを使うのが良いです。


今までの場合、ほとんどはこれらの①〜⑥の中で解決してきました。これで増えない場合は、何らかの凡ミスをしている可能性があると思われます。そんな時は一度手を止めて、寝たり、休んだり、別なことをして、一度リラックスしてからやると案外うまくいくもんです。

では楽しいPCRライフを!!

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